三つの地平線モデルとは?McKinseyの成長戦略フレームワークを解説
三つの地平線モデルはMcKinseyが提唱した、既存事業・新興事業・将来の種を同時に管理する成長戦略フレームワークです。各Horizonの定義、資源配分の考え方、実践方法を解説します。
三つの地平線モデルとは
三つの地平線モデル(Three Horizons of Growth)とは、企業の成長を3つの時間軸に分けて管理するフレームワークです。McKinseyのコンサルタントであるメフルダード・バガイ、スティーブン・コーリー、デイビッド・ホワイトが1999年の著書『The Alchemy of Growth』で提唱しました。
このモデルの核心は、「企業が持続的に成長するためには、既存事業の最適化(Horizon 1)、新興事業の育成(Horizon 2)、将来の成長の種の探索(Horizon 3)を同時に進める必要がある」という考え方です。多くの企業がHorizon 1の既存事業に資源を集中しすぎるあまり、次の成長の柱が育たず、既存事業が成熟期を迎えた時点で成長が停滞するという罠に陥ります。
コンサルティングの現場では、中期経営計画の策定、イノベーション戦略のポートフォリオ設計、R&D投資の最適化など、成長戦略に関わるプロジェクトで広く活用されています。
構成要素
Horizon 1: 既存事業の維持・拡大
現在の収益の中核をなす事業です。成熟した市場における既存製品・サービスのパフォーマンスを最大化し、効率改善やコスト削減を通じてキャッシュフローを確保します。全体の資源の60〜70%を配分するのが一般的な目安です。Horizon 1は利益の源泉であり、Horizon 2・3への投資原資を生み出す役割を担います。
Horizon 2: 新興事業の育成
次の収益の柱となりうる新規事業や新市場への参入です。すでにビジネスモデルが見えており、急成長の初期段階にある事業が該当します。全体の20〜30%の資源配分が目安です。Horizon 2はHorizon 1から移行するものもあれば、Horizon 3から成長してくるものもあります。
Horizon 3: 将来の成長の種
将来の成長機会を探索するための研究、実験、パイロットプロジェクトです。不確実性が高く、リターンが出るまでに時間がかかりますが、中長期の成長を支える基盤となります。全体の10〜20%の資源を配分し、小規模な投資で多様な可能性を探ります。
| Horizon | 時間軸 | フォーカス | 資源配分の目安 | KPI例 |
|---|---|---|---|---|
| H1 | 0〜2年 | 既存事業の最適化 | 60〜70% | 営業利益率・市場シェア |
| H2 | 2〜5年 | 新興事業の育成 | 20〜30% | 売上成長率・顧客獲得数 |
| H3 | 5〜10年+ | 将来の種の探索 | 10〜20% | 実験数・学習の質 |
実践的な使い方
ステップ1: 現在のポートフォリオを棚卸しする
自社の事業、プロジェクト、投資案件をH1/H2/H3に分類します。分類の判断基準は「収益の確実性」と「成長フェーズ」です。安定した収益を生んでいるのがH1、急成長中だが収益規模はまだ小さいのがH2、研究・実験段階で収益はほぼないのがH3です。多くの企業で、H3に該当する取り組みが極端に少ないことが可視化されます。
ステップ2: 資源配分のバランスを評価する
現在の人材、資金、経営陣の時間がH1/H2/H3にどのように配分されているかを定量化します。日常業務に追われてH1にほとんどの資源が吸い取られている場合、中長期の成長が危うい状態です。経営陣の時間配分は特に重要な指標であり、H2・H3に十分な時間が投入されているかを確認します。
ステップ3: 各Horizonの戦略を策定する
H1では効率改善と競争力維持、H2ではスケールアップの加速、H3ではポートフォリオの多様化と実験の設計に焦点を当てます。各Horizonで求められるマネジメントのスタイルは異なります。H1は効率と予測可能性を重視し、H3は失敗を許容する探索的なマネジメントが必要です。
ステップ4: Horizon間の移行メカニズムを設計する
H3の実験がH2に成長し、H2の事業がH1に移行するためのパイプラインを設計します。ステージゲート方式の評価プロセスや、スピンオフ・インキュベーションの仕組みを整備し、有望な取り組みが次のステージに進める仕組みを構築します。同時に、成長が止まったH1事業の縮小・撤退の判断基準も設定します。
活用場面
- 中期経営計画の策定: 3〜5年の計画において、成長の持続性を確保するためのポートフォリオ設計に活用します
- イノベーション戦略の体系化: 既存事業の改善からブレークスルー型イノベーションまでの取り組みを整理します
- R&D投資の最適化: 短期的な製品改善と長期的な研究のバランスを可視化し、投資配分を見直します
- 事業ポートフォリオレビュー: 取締役会や経営会議で、成長戦略の全体像を共有する際のフレームワークとして使用します
- スタートアップの成長戦略: 既存プロダクトの収益化と次の柱の探索を並行する計画に応用します
注意点
時間軸は固定ではない
デジタル化によりイノベーションのスピードが加速しており、HBRの論文で指摘されているように、H3が短期間でH1を脅かすケースが増えています。かつてのH3(5〜10年先)の技術が、2〜3年で市場を変革する可能性があります。時間軸を固定的に捉えず、業界の変化スピードに応じて柔軟に設定する必要があります。
H1の収益力なくしてH2・H3はない
イノベーションへの投資に注目するあまり、H1の既存事業の収益力を軽視するのは危険です。H1が生み出すキャッシュフローがH2・H3への投資原資となるため、まずH1の競争力を維持することが前提です。「両利きの経営」の概念と同様に、探索と深化の両立が求められます。
組織構造と評価体系を適合させる
H1の効率重視の組織文化でH3の探索的な活動を行うことは困難です。各Horizonの活動には異なるKPI、評価基準、マネジメントスタイルが必要です。H3の担当者を既存事業と同じ短期収益指標で評価すると、誰も不確実性の高い探索に取り組まなくなります。
まとめ
三つの地平線モデルは、既存事業の最適化、新興事業の育成、将来の成長の種の探索を同時に管理するフレームワークです。持続的な成長を実現するためには、H1に偏りがちな資源配分を見直し、H2・H3への意図的な投資を行う必要があります。ただし、デジタル時代においては時間軸の柔軟な運用と、各Horizonに適合した組織・評価の設計が成功の鍵を握ります。
参考資料
- Enduring Ideas: The three horizons of growth - McKinsey & Company(三つの地平線モデルの原典となる解説記事)
- McKinsey’s Three Horizons Model Defined Innovation for Years. Here’s Why It No Longer Applies. - Harvard Business Review(デジタル時代におけるモデルの限界と再解釈を考察)
- Three Horizons Framework To Help You Grow - Cascade(三つの地平線モデルの実践的な適用ガイドとテンプレート)