ブルーオーシャンシフトとは?競争から脱却する5ステップの戦略手法
ブルーオーシャンシフトは、既存の競争市場(レッドオーシャン)から新たな市場空間(ブルーオーシャン)へ体系的に移行する戦略手法です。5ステップの実践プロセスとERRCグリッドの活用法を、コンサルタント向けに解説します。
ブルーオーシャンシフトとは
ブルーオーシャンシフト(Blue Ocean Shift)とは、W・チャン・キムとレネ・モボルニュが提唱した、競争の激しい既存市場(レッドオーシャン)から、競争のない新しい市場空間(ブルーオーシャン)へ体系的に移行するための戦略手法です。
2005年に発表されたブルーオーシャン戦略の概念を発展させ、2017年に「実行のためのプロセス」として体系化されました。前著が「なぜブルーオーシャンを目指すべきか」を示したのに対し、本フレームワークは「どうやって移行するか」に焦点を当てています。
単なる市場分析ツールではなく、組織の人間性(ヒューマンネス)を考慮した変革プロセスである点が特徴です。戦略の転換に伴う組織メンバーの心理的抵抗をどう克服するかまで設計されています。
構成要素
ブルーオーシャンシフトは5つのステップと、それを支えるツール群で構成されます。
5つのステップ
| ステップ | 名称 | 目的 | 主要ツール |
|---|---|---|---|
| 1 | 出発点を選ぶ | 対象事業の特定と範囲設定 | パイオニア・移住者・安住者マップ |
| 2 | 現状を知る | 業界の競争構造の可視化 | 戦略キャンバス |
| 3 | 到達可能な先を想像する | 潜在的な需要の発見 | 非顧客の3層分析 |
| 4 | 道筋を見つける | 新市場への具体的方向性の探索 | 6つのパス、ERRCグリッド |
| 5 | 動く | 市場テストと本格展開 | ブルーオーシャン見本市 |
ERRCグリッド
ステップ4の中核となるツールが、ERRC(Eliminate-Reduce-Raise-Create)グリッドです。業界が当然としている競争要素を4つの視点で再編します。
- Eliminate(取り除く): 業界が長年競ってきたが、顧客にとって不要な要素を排除します
- Reduce(減らす): 業界標準以下に減らすべき要素を特定します
- Raise(増やす): 業界標準よりも大幅に高めるべき要素を引き上げます
- Create(付け加える): 業界がこれまで提供していなかった新しい要素を創造します
実践的な使い方
ステップ1: パイオニア・移住者・安住者マップの作成
自社のポートフォリオを3つに分類します。安住者(既存市場で競争している事業)、移住者(差別化を進めている事業)、パイオニア(新市場を開拓している事業)です。安住者が多い事業群が、ブルーオーシャンシフトの出発点候補となります。
ステップ2: 戦略キャンバスの描画
業界の主要な競争要素を横軸に、各要素における投資レベルを縦軸に取り、自社と競合の価値曲線を描きます。多くの場合、競合同士の価値曲線は驚くほど似通っています。この「収斂」が激しい競争を生んでいることを、組織メンバーに視覚的に理解させることがこのステップの核心です。
ステップ3: 非顧客の3層分析
まだ顧客になっていない層を3つに分類して分析します。第1層は「市場の縁にいる」人々(不満を持ちながら利用している層)、第2層は「意識的に拒否している」人々、第3層は「業界が想定すらしていない」遠い潜在層です。第1層から第3層に向かうほど市場拡大の可能性は大きくなります。
ステップ4: 6つのパスとERRCグリッドの適用
6つのパスとは、業界の暗黙の前提を問い直す視点です。代替産業、業界内の戦略グループ、買い手チェーン、補完財・補完サービス、機能と感性の切り替え、トレンドの6つの観点から、新しい価値の方向性を探ります。発見した方向性をERRCグリッドに落とし込み、新しい価値曲線を設計します。
ステップ5: ブルーオーシャン見本市の開催
策定した戦略を組織内で「見本市」形式で発表し、フィードバックを得ます。トップダウンで押し付けるのではなく、組織メンバーが戦略の策定プロセスに参加する「公正なプロセス」を通じて、実行段階でのコミットメントを確保します。
活用場面
- 既存事業の成長鈍化: 成熟市場で価格競争に陥っている事業のポジショニング再構築に活用します
- 新規事業の方向性検討: 既存市場の延長ではなく、新しい市場空間の発見に向けたアプローチとして使います
- 中期経営計画の策定: ポートフォリオの見直しにおいて、安住者事業の変革方向性を検討します
- 業界再編の戦略立案: 業界の競争ルールを書き換える戦略的アクションの設計に活用します
- 組織変革の推進: 競争から脱却する必要性を組織内に浸透させるコミュニケーションツールとして使います
注意点
ブルーオーシャンは永続しない
新しい市場空間を創造しても、追随者の参入によって時間とともにレッドオーシャン化します。ブルーオーシャンシフトは一度きりのイベントではなく、継続的に取り組むプロセスとして位置づける必要があります。
戦略キャンバスの客観性に注意
戦略キャンバスの競争要素の選定や投資レベルの評価は、担当者の主観に左右されがちです。可能な限り顧客調査や定量データに基づいて描画し、複数の視点からレビューすることが重要です。
非顧客分析の実行難度
非顧客の3層分析は概念的には理解しやすいものの、実際の調査は困難です。特に第3層(業界が想定していない遠い層)のニーズ把握には、従来の市場調査手法だけでは不十分な場合があります。エスノグラフィー調査やデザインシンキングの手法を組み合わせることを検討してください。
組織の実行力が前提
優れたブルーオーシャン戦略も、組織の実行力が伴わなければ実現しません。ステップ5の「公正なプロセス」を軽視すると、戦略は絵に描いた餅に終わります。
まとめ
ブルーオーシャンシフトは、競争の激しいレッドオーシャンから新しい市場空間へ移行するための体系的な5ステッププロセスです。戦略キャンバスによる現状把握、非顧客分析による潜在需要の発見、ERRCグリッドによる価値の再編を通じて、競争ではなく市場創造にフォーカスした戦略を構築できます。組織の人間性を考慮した変革プロセスである点を活かし、分析と実行の両面から取り組むことが成功の鍵です。