ブルーオーシャン戦略とは?戦略キャンバスと4つのアクションで競争を回避する
ブルーオーシャン戦略は競争のない市場空間を創造し、コスト削減と買い手価値の向上を同時に実現するバリューイノベーションの戦略論です。戦略キャンバス、ERRCグリッド、6つのパスを解説します。
ブルーオーシャン戦略とは
ブルーオーシャン戦略とは、既存の市場(レッドオーシャン)で競合と消耗戦を繰り広げるのではなく、競争のない未開拓の市場空間(ブルーオーシャン)を創造することで、持続的な成長を実現する戦略論です。
INSEADのW・チャン・キムとレネ・モボルニュが2005年の著書「Blue Ocean Strategy」で体系化しました。従来の戦略論が「既存市場での競争にいかに勝つか」を主題にしていたのに対し、ブルーオーシャン戦略は「競争自体を無意味にする新しい市場をいかに創るか」という問いを提示した点で画期的です。
この戦略の核心は「バリューイノベーション」にあります。コスト削減と買い手にとっての価値向上を同時に追求することで、差別化と低コストのトレードオフを打破するという考え方です。技術革新(テクノロジーイノベーション)ではなく、価値の革新(バリューイノベーション)に焦点を当てている点が特徴です。
構成要素
戦略キャンバス
戦略キャンバス(Strategy Canvas)は、業界の競争要因を横軸に、各要因に対する提供価値の水準を縦軸にとったグラフです。自社と競合の「価値曲線(Value Curve)」を描くことで、業界内で何に投資が集中し、何が見落とされているかを一目で把握できます。
価値曲線が競合と重なっている場合、同質的な競争に陥っていることを意味します。ブルーオーシャン戦略では、自社の価値曲線を意識的に競合と異なる形に変えることを目指します。
4つのアクション(ERRCグリッド)
価値曲線を変えるための具体的な思考フレームワークが、4つのアクション(ERRCグリッド)です。
- 排除(Eliminate): 業界が当然と考えている要素の中で、実は買い手にとって不要なものを取り除きます。これによりコスト構造を根本的に変えます
- 削減(Reduce): 業界標準を大幅に下回る水準まで引き下げても買い手の価値が損なわれない要素を特定し、投資を減らします
- 増加(Raise): 業界標準を大幅に上回る水準に引き上げるべき要素を特定し、差別化のポイントとします
- 創造(Create): 業界がこれまで提供してこなかった新しい価値要素を生み出します。ここに競争のないブルーオーシャンが生まれます
排除と削減がコスト削減に寄与し、増加と創造が買い手価値の向上に寄与します。この4つを同時に行うことでバリューイノベーションが実現します。
バリューイノベーション
バリューイノベーションは、差別化と低コストを同時に達成する戦略的行動です。従来の戦略論では「差別化にはコストがかかる」「低コストには差別化の犠牲が必要」というトレードオフが前提でしたが、ブルーオーシャン戦略はこの前提自体を否定します。
不要な競争要因を排除・削減することでコストを下げ、その分のリソースを新しい価値要素の創造に振り向けるという発想です。
6つのパス
ブルーオーシャンを見つけるための視点として、キムとモボルニュは「6つのパス」を提示しています。
| パス | 視点の転換 |
|---|---|
| 代替産業に学ぶ | 同業他社ではなく、代替手段を提供する異業種を見る |
| 業界内の戦略グループに学ぶ | 同じ業界内の異なるポジショニングの間を見る |
| 買い手グループを再定義する | 購買者・使用者・影響者の中でターゲットを変える |
| 補完財・サービスを含めて考える | 製品・サービス単体ではなく前後の体験全体を見る |
| 機能と感性の切り替え | 機能訴求の業界で感性訴求、またはその逆を試みる |
| 時間軸を変える | 現在のトレンドが将来もたらす変化を先取りする |
実践的な使い方
ステップ1: 戦略キャンバスを描く
業界の主要な競争要因(通常6〜10個)を特定し、自社と主要競合の提供価値水準をプロットします。業界全体の価値曲線がどのような形をしているかを把握し、競争が集中している要因と見落とされている要因を明確にします。
ステップ2: ERRCグリッドで仮説を立てる
4つのアクション(排除・削減・増加・創造)それぞれに該当する要素を洗い出します。「業界では当然だが買い手は本当に求めているか」「業界がまだ提供していないが買い手が潜在的に求めている価値は何か」という問いを立て、仮説を生成します。
ステップ3: 新しい価値曲線を設計する
ERRCグリッドの結果を戦略キャンバスに反映し、競合とは異なる形の価値曲線を設計します。既存の価値曲線と明確に異なるメリハリのある曲線になっているかを確認します。競合と似た形であれば、ブルーオーシャンには到達していません。
ステップ4: 事業モデルとして成立するか検証する
新しい価値曲線が買い手にとって魅力的であること(Buyer Utility)、大多数がアクセスできる価格であること(Strategic Pricing)、ターゲットコストを実現できること(Target Costing)、実行上の障害を克服できること(Adoption)の4つの観点で検証します。
活用場面
- 新規事業の構想: 既存市場の延長ではなく、競争のない市場空間を狙った事業コンセプトを設計します
- 既存事業の差別化: 同質競争から脱却し、業界の常識を覆す独自のポジショニングを確立します
- 業界分析の深化: ファイブフォース分析で「競争が激しい」と判明した業界で、競争を回避する戦略オプションを探索します
- 価格戦略の再設計: コストリーダーシップと差別化のトレードオフを超え、バリューイノベーションによる新たな価格戦略を構築します
- M&A・事業ポートフォリオ: 買収先やパートナーシップの評価において、ブルーオーシャンの可能性を持つ事業を特定します
注意点
ブルーオーシャンは永続しない
新しい市場空間を創造しても、成功すれば必ず模倣者が現れます。ブルーオーシャンがレッドオーシャンに変わるまでの時間を最大化するためには、参入障壁(ブランド、ネットワーク効果、規模の経済など)を意識的に構築する必要があります。
顧客不在の「空虚な海」を避ける
誰も手を出さない市場には、需要が存在しないという理由がある場合もあります。「競争がない」ことと「市場がある」ことは同義ではありません。ERRCグリッドで設計した価値提案に対して、実際に買い手が対価を払う意思があるかを検証してください。
既存事業とのカニバリゼーション
ブルーオーシャン戦略で新たな事業を立ち上げると、既存事業の顧客が移行して売上を食い合うリスクがあります。既存事業の価値曲線と新事業の価値曲線がターゲット顧客レベルで重なっていないかを確認します。
フレームワークの適用範囲を認識する
ブルーオーシャン戦略は「何を」提供するかの戦略論であり、「どう」実行するかの組織・オペレーション論は別途必要です。戦略キャンバスで描いた理想を実現するための組織能力、プロセス、文化の変革も同時に設計しなければ、戦略は絵に描いた餅になります。
まとめ
ブルーオーシャン戦略は、競争のない市場空間を創造するために、排除・削減・増加・創造の4つのアクションで価値曲線を変え、コスト削減と買い手価値の向上を同時に実現するバリューイノベーションの戦略論です。戦略キャンバスで業界の競争構造を可視化し、6つのパスで新しい市場空間を探索することで、同質競争から脱却する戦略的選択肢を見出せます。ただし、ブルーオーシャンは永続しないため、参入障壁の構築と実行力の担保を合わせて設計することが不可欠です。
参考資料
- Blue Ocean Strategy - Harvard Business Review(キムとモボルニュによるブルーオーシャン戦略の原論文。戦略キャンバスとバリューイノベーションの概念を提示)
- ブルーオーシャン戦略 - グロービス経営大学院(MBA用語集。バリューイノベーション、6つのパス、4つのアクションの基本概念を解説)
- Value Innovation: The Strategic Logic of High Growth - Harvard Business Review(バリューイノベーションの概念を詳説。競合ベンチマークではなく、技術を価値に結びつけることの重要性を論じる)