アーンドバリュー分析(応用編)EAC予測とTCPIで先手を打つ手法
アーンドバリュー分析の応用編として、EACの4つの予測手法とTCPI(残作業効率指標)の活用法を解説します。プロジェクト完了時のコスト予測と是正判断のための実践的な指針を提供します。
アーンドバリュー分析(応用編)とは
アーンドバリュー分析の応用編では、基本3指標(PV・EV・AC)から一歩進み、プロジェクト完了時のコスト予測(EAC)と、目標達成に必要な残作業効率(TCPI)を算出する手法を扱います。
基本編のEVMでは「現時点で計画に対してどれだけ遅れているか、どれだけコスト超過しているか」を把握できます。しかしプロジェクトマネージャーにとってより重要な問いは「このまま進むと最終的にいくらかかるのか」「目標に収めるためにどれだけ効率を上げる必要があるのか」です。
EACとTCPIはこの問いに定量的に回答する予測指標です。PMBOKでも完了時見積り(EAC)の算出を推奨しており、プロジェクトの健全性を将来に向けて評価するための基本ツールとして位置づけられています。
構成要素
応用編の中核は、EACの4つの予測手法とTCPIの2つの計算パターンです。
EAC予測手法1: 計画通りの前提
EAC = AC + (BAC - EV) の計算式を使います。これまでの差異は一時的なもので、残りの作業は当初計画通りに進むと仮定した予測です。差異が初期段階の立ち上げに起因する一過性のものである場合に適用します。最も楽観的な予測となります。
EAC予測手法2: CPI傾向の継続
EAC = BAC / CPI の計算式を使います。現在のコスト効率(CPI)がプロジェクト終了まで続くと仮定した予測で、最も一般的に使われる手法です。プロジェクトの中盤以降、CPIが安定してきた段階で信頼性が高まります。
EAC予測手法3: CPI x SPIの複合考慮
EAC = AC + (BAC - EV) / (CPI x SPI) の計算式を使います。コスト効率とスケジュール効率の両方を考慮した予測です。スケジュール遅延がコスト増加に影響する(残業や追加リソース投入が発生する)プロジェクトに適しています。
EAC予測手法4: ボトムアップ再見積り
EAC = AC + ETC(新規見積り)の計算式を使います。残作業を改めてボトムアップで見積もり直す方法です。手間はかかりますが、プロジェクトのスコープ変更や前提条件の変化が大きい場合に最も正確な予測が得られます。
TCPI(To-Complete Performance Index)
残作業を目標内で完了するために必要なコスト効率を示す指標です。TCPI = (BAC - EV) / (BAC - AC) は当初予算内で完了するための効率、TCPI = (BAC - EV) / (EAC - AC) は新しい見積り内で完了するための効率を表します。
実践的な使い方
ステップ1: 基本指標の算出と状況把握
まずPV、EV、ACの最新値からSV、CV、SPI、CPIを算出します。プロジェクトが計画通りか、遅延・超過しているかの現状を把握した上で、予測フェーズに進みます。
ステップ2: 適切なEAC手法の選択
プロジェクトの状況に応じて適切なEAC予測手法を選びます。差異が一過性であれば手法1、CPIが安定していれば手法2、スケジュール遅延が大きければ手法3、大幅なスコープ変更があれば手法4を適用します。複数手法で算出し、範囲として報告するのも有効です。
ステップ3: TCPIによる実現可能性の評価
TCPIを算出し、残作業の効率目標が現実的かどうかを評価します。TCPIが1.0を大幅に超える(例えば1.3以上)場合、過去の実績を上回る効率が求められており、計画の見直しやスコープ調整の検討が必要です。
ステップ4: VAC(完了時差異)の報告
VAC = BAC - EAC を算出し、完了時に予算からどれだけ乖離するかを報告します。VACが負の値であれば予算超過の見通しです。ステークホルダーには、EACの計算前提とともにVACを早期に共有し、対策の意思決定を促します。
ステップ5: 是正措置の立案と追跡
予測結果に基づき、スコープの調整、リソースの追加、プロセスの効率化などの是正措置を立案します。措置実施後のSPIやCPIの推移を追跡し、効果を検証します。
活用場面
月次のプロジェクトステータスレポートでは、SPI/CPIの現状値に加えてEACとTCPIを報告します。将来の見通しを定量的に示すことで、経営層やスポンサーの意思決定を支援します。
プロジェクトリカバリーの判断では、TCPIの値が現実的に達成可能かを評価基準として使います。TCPIが過去の最高CPI値を超えている場合、リカバリーは困難と判断し、スコープ調整や追加予算の承認を求める根拠とします。
複数プロジェクトのポートフォリオ管理では、各プロジェクトのEACを集約して組織全体の予算見通しを算出します。VACが大きいプロジェクトに経営資源を重点配分する判断材料となります。
注意点
EACの予測はあくまで仮定に基づく見積りであり、確定値ではありません。どの手法を使ったか、どのような前提を置いたかを必ず明記してください。前提が変われば予測値も変わります。
CPIはプロジェクト後半になるほど安定する傾向がありますが、前半のCPIをそのまま使ってEACを算出すると大きな誤差が出る可能性があります。プロジェクトの進捗率が20%未満の段階では、EAC予測の信頼性が限定的であることを認識しておいてください。
EVMの数値だけで判断を完結させないことも重要です。定量的な指標は意思決定の補助であり、定性的な状況(チームの士気、技術的リスク、外部環境の変化など)と合わせて総合的に判断する必要があります。
まとめ
アーンドバリュー分析の応用編では、EACの4つの予測手法とTCPIを活用して、プロジェクトの将来コストを定量的に予測します。現状把握にとどまらず、「この先どうなるか」「目標達成に何が必要か」に答えることで、先手を打った是正措置の立案を可能にします。予測手法の前提を理解し、適切に使い分けることが実務上のポイントです。
参考資料
- Guide to Earned Value Management - ProjectEngineer.net(EVMの包括的ガイド、EAC予測手法の解説)
- TCPI - To-Complete Performance Index - PMI(TCPIの概念と計算方法の詳細)
- How to Make Earned Value Work on Your Project - PMI(EVMの実務適用に関する知見)