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SIT法とは?5つの思考ツールで体系的にイノベーションを生む手法

SIT法(Systematic Inventive Thinking)は「箱の中で考える」ことを原則に、引き算・分割・掛け算・用途統合・属性依存の5つのツールで革新的アイデアを生み出す手法です。

    SIT法とは

    SIT法(Systematic Inventive Thinking)は、1990年代半ばにイスラエルで開発された体系的な発明・イノベーション手法です。ロニ・ホロウィッツ(Roni Horowitz)とジェイコブ・ゴールデンバーグ(Jacob Goldenberg)らが、ロシアの発明理論TRIZ(トリーズ)をベースに、よりビジネスの現場で使いやすい形に再構築しました。

    SIT法の核心は「Think Inside the Box(箱の中で考える)」という原則です。一般的なブレインストーミングが「箱の外で考える」ことを推奨するのに対し、SIT法はあえて既存の製品・サービス・プロセスの構成要素の中に制約を設け、その制約の中からイノベーションを生み出します。研究によれば、世界中の革新的な製品やサービスの大多数は、わずか5つの共通パターンに分類できるとされています。SIT法はこの5つのパターンを「思考ツール」として定式化したものです。

    自由すぎる発想はかえって思考を停滞させることがあります。SIT法は適度な制約を与えることで、思考に方向性を持たせ、体系的かつ再現性のあるイノベーションプロセスを実現します。

    構成要素

    SIT法は5つの思考ツール(Thinking Tools)で構成されます。

    SIT法の5つの思考ツール

    5つの思考ツール

    1. 引き算(Subtraction): 製品やプロセスの本質的な構成要素を意図的に取り除き、残った要素で新しい価値を生み出す手法です。ソニーのウォークマンはレコーダーから録音機能を取り除いたことで生まれました。「この要素がなかったらどうなるか」という問いが出発点です。

    2. 分割(Division): 製品やプロセスを構成要素に分解し、それらを時間的、空間的、または機能的に再配置する手法です。エアコンの室内機と室外機を分離した設計はこの例です。「この要素を切り離して別の場所・タイミングに置いたらどうなるか」と考えます。

    3. 掛け算(Multiplication): 既存の構成要素を複製し、その複製に変更を加える手法です。完全なコピーではなく、サイズ、色、形、機能に変化を持たせた「変形コピー」を作ります。多焦点レンズ(遠近両用メガネ)は、レンズの複製に異なる度数を与えた例です。

    4. 用途統合(Task Unification): 既存の構成要素に、本来とは異なる新しい役割を追加で割り当てる手法です。スマートフォンのカメラが文書スキャナーやQRコードリーダーとしても機能するように、一つの要素に複数の用途を統合します。

    5. 属性依存(Attribute Dependency): 製品内部の属性間、または製品と外部環境の属性間に、新しい依存関係(相関関係)を作り出す手法です。温度によって色が変わるマグカップは、「温度」と「色」の間に新しい依存関係を設定した例です。

    実践的な使い方

    ステップ1: 対象の構成要素をリストアップする

    改善・革新したい製品、サービス、プロセスの構成要素と属性を洗い出します。構成要素とは物理的な部品や機能モジュール、属性とはサイズ、色、速度、価格などの特性です。

    たとえば「会議室」であれば、構成要素は「テーブル、椅子、ホワイトボード、プロジェクター、照明、壁」、属性は「広さ、定員、明るさ、温度、防音性」などです。

    ステップ2: 5つのツールを順番に適用する

    各ツールを対象に適用し、仮想的なシナリオを生成します。

    • 引き算: 「テーブルがない会議室は?」→ 立ち会議スペース(スタンディングミーティング)
    • 分割: 「ホワイトボードを壁から分離したら?」→ モバイルホワイトボード、デジタルホワイトボード
    • 掛け算: 「照明を複製して変形させたら?」→ ゾーンごとに異なる色温度の照明(集中エリアと議論エリア)
    • 用途統合: 「壁にプロジェクターの機能を持たせたら?」→ 壁面投影型ディスプレイ
    • 属性依存: 「参加人数と部屋の照明を連動させたら?」→ 参加者数に応じて自動調整される照明・空調

    ステップ3: 生成したアイデアを評価・精緻化する

    仮想シナリオの中から、実現可能性と市場価値のあるアイデアを選定します。この段階では「Function Follows Form」(形態が先、機能は後)の原則に従います。まず制約によって新しい形を作り、その後でその形が持つ価値を検討するのがSIT法のユニークな点です。

    活用場面

    • 製品開発: 既存製品の構成要素を再構成することで、競合と差別化された新製品コンセプトを生み出します
    • サービスデザイン: サービスプロセスの構成要素を5つのツールで再設計し、顧客体験の革新を図ります
    • コスト削減: 引き算ツールにより「実は不要だった要素」を発見し、本質的なコスト削減につなげます
    • プロセス改善: 業務プロセスの構成ステップに5つのツールを適用し、効率化のアイデアを体系的に生成します
    • 新規ビジネスモデル: 既存のビジネスモデルの構成要素を分割・統合することで、新しいビジネスモデルのパターンを発見します

    注意点

    構成要素のリストアップが成否を左右する

    SIT法の出発点は構成要素の洗い出しです。ここが不十分だと、その後のツール適用で得られるアイデアの質と量が低下します。多様な視点のメンバーでリストアップを行うことが重要です。

    最初は不自然なアイデアが出ることを受け入れる

    特に引き算ツールでは「そんなものを取り除いたら製品として成立しない」と感じるアイデアが生まれます。しかし、この不自然さこそがイノベーションの種です。評価は後回しにし、まずは制約に従って仮想シナリオを生成することに集中します。

    TRIZとの違いを理解する

    SIT法はTRIZから派生していますが、TRIZが40の発明原理と矛盾マトリクスを用いるのに対し、SIT法は5つのツールに絞り込んでいます。TRIZはエンジニアリング寄り、SIT法はビジネス全般への適用を志向している点が違いです。

    まとめ

    SIT法は、引き算、分割、掛け算、用途統合、属性依存の5つの思考ツールを使って、既存の構成要素の中から体系的にイノベーションを生み出す手法です。「箱の中で考える」という適度な制約が思考に方向性を与え、再現性のある発想プロセスを可能にします。自由発想型のブレインストーミングで行き詰まった際の代替手法として、また製品開発やサービスデザインの構造的な発想法として高い実用性を持っています。

    参考資料

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