アプリシエイティブ・プロブレム・ソルビングとは?強みを活かす問題解決を解説
アプリシエイティブ・プロブレム・ソルビングは、問題の原因追求ではなく組織の強みや成功体験を起点に解決策を構築する手法です。定義、構成要素、実践手順、活用場面、注意点を解説します。
アプリシエイティブ・プロブレム・ソルビングとは
アプリシエイティブ・プロブレム・ソルビング(Appreciative Problem Solving、以下APS)は、アプリシエイティブ・インクワイアリー(AI)の原則を具体的な問題解決プロセスに応用した手法です。
従来の問題解決は「何がうまくいっていないか」を分析するのに対し、APSは「過去にうまくいった経験」や「組織の強み」を起点に解決策を組み立てます。問題を否定せず、強みと可能性に焦点を当てることで、関係者のエネルギーと創造性を最大化する点が特徴です。デビッド・クーパライダーとダイアナ・ホイットニーのAI理論を基盤としています。
構成要素
APSは5つのフェーズで構成され、これを「5Dサイクル」と呼びます。
1. Define(定義)
取り組むべきテーマを肯定的な問いとして再定義します。「離職率が高い」という問題を「社員が長く働き続けたいと思える職場とは」という探求テーマに転換します。
2. Discover(発見)
組織内の成功体験やベストプラクティスを探索します。「過去に最もやりがいを感じた瞬間はいつか」「チームが最高のパフォーマンスを発揮した時の条件は何か」などのインタビューを行います。
3. Dream(夢想)
発見した強みや成功要因をもとに、理想的な未来像を描きます。制約条件を一旦脇に置き、「もし強みが最大限に発揮されたらどうなるか」を自由に構想します。
4. Design(設計)
理想の未来像を実現するための仕組みや制度を設計します。既存の強みを活かす形で、具体的な施策やプロセスに落とし込みます。
5. Destiny(実行)
設計した施策を実行に移し、継続的な改善サイクルを回します。成功体験を共有し、新たな強みの発見につなげます。
実践的な使い方
ステップ1: 問題を肯定的な問いに変換する
現状の問題をそのまま扱うのではなく、目指す状態を表す問いに変換します。この変換が最も重要なステップです。
| 従来の問い | APSの問い |
|---|---|
| なぜ部門間連携がうまくいかないのか | 部門を超えた協働が最も輝いた瞬間はいつか |
| なぜ顧客満足度が低いのか | 顧客が感動したサービス体験とは何か |
| なぜイノベーションが生まれないのか | 画期的なアイデアが生まれた時の条件は何か |
ステップ2: ペアインタビューで成功体験を掘り起こす
参加者同士がペアを組み、肯定的な問いに基づくインタビューを行います。聞き手は相手の体験に深く共感しながら、成功要因を引き出します。一人あたり15〜20分が目安です。
ステップ3: 共通パターンを抽出する
ペアインタビューの結果をグループで共有し、成功体験に共通する要因やパターンを抽出します。これが組織の「ポジティブ・コア(強みの核)」となります。
ステップ4: 理想像を可視化する
ポジティブ・コアを土台にして、3〜5年後の理想の姿をグループで描きます。スローガン、寸劇、イラストなど、言語だけでなく多様な表現手段を使うと創造性が高まります。
ステップ5: アクションプランに落とし込む
理想像を実現するための具体的な施策を設計します。すでに機能している強みを拡張する形で計画を立てるため、実現可能性が高まります。
活用場面
- 組織変革: 合併後の文化統合で、両社の強みを活かした新しい組織像を構築します
- チームビルディング: 新チーム発足時に成功体験を共有し、高いパフォーマンスの土台を作ります
- 顧客体験改善: 顧客が感動した瞬間を分析し、再現可能な仕組みに落とし込みます
- 人材育成: 社員の強みと成長体験を基盤にした育成プログラムを設計します
- 戦略策定: 組織の競争優位の源泉を再発見し、それを軸にした戦略を構築します
注意点
問題の否認にしない
APSは問題を無視するアプローチではありません。問題の存在は認めた上で、解決のアプローチとして強みに焦点を当てます。「問題なんてない」というポジティブの押し付けは逆効果です。
構造的な問題には限界がある
制度やシステムの根本的な欠陥が原因の場合、強みベースのアプローチだけでは解決しないことがあります。原因分析型のアプローチと組み合わせる柔軟さが必要です。
ファシリテーションの質が成果を左右する
肯定的な問いの設計とインタビューの誘導には、熟練したファシリテーターが求められます。問いの質が低いと、表面的な成功談の共有に終わりがちです。
まとめ
アプリシエイティブ・プロブレム・ソルビングは、組織の強みと成功体験を起点に問題を解決する手法です。「何が悪いのか」ではなく「何がうまくいっているのか」という問いの転換が、関係者の主体性とエネルギーを引き出します。原因追及型のアプローチで行き詰まった場面や、組織のモチベーションを高めながら変革を進めたい場面で力を発揮します。
参考資料
- What is Appreciative Inquiry? - David Cooperrider
- Appreciative Inquiry Commons - Champlain College
- The Thin Book of Appreciative Inquiry - Sue Annis Hammond