組織ネットワーク分析(ONA)とは?非公式な組織構造を可視化する手法を解説
組織ネットワーク分析(ONA)は、公式の組織図には現れない非公式なコミュニケーション・協働パターンを可視化する手法です。ONAの主要分析手法、データ収集方法、組織開発での活用法を解説します。
組織ネットワーク分析(ONA)とは
組織ネットワーク分析(Organizational Network Analysis, ONA)は、組織内の人々の間のコミュニケーション、協働、助言、信頼などの関係をネットワークとして可視化し、公式の組織図では捉えられない「実態としての組織構造」を分析する手法です。
公式の組織図は階層的な指揮命令系統を示しますが、実際の仕事の流れや意思決定は非公式なつながりに大きく依存しています。ONAは「誰が実際に誰と協働しているか」「情報はどの経路で流れているか」「組織の実質的なキーパーソンは誰か」を客観的なデータに基づいて明らかにします。
組織ネットワーク分析は、社会ネットワーク分析(SNA)を組織研究に応用したものです。その先駆的な研究として、1990年代にデイビッド・クラックハート(David Krackhardt)がカーネギーメロン大学で行った「非公式ネットワーク」の研究があります。クラックハートは組織内の助言ネットワーク、友人ネットワーク、報告ネットワークを比較し、公式構造と非公式構造の乖離が組織のパフォーマンスに影響することを示しました。近年はMicrosoft 365のコラボレーションデータを活用したパッシブONAも普及しています。
構成要素
データ収集方法
ONAのデータ収集は大きく2つのアプローチがあります。
- アクティブONA: アンケート調査で「誰に助言を求めるか」「誰と頻繁に協働するか」を直接質問する方法
- パッシブONA: メール、チャット、カレンダー、コラボレーションツールのログからネットワークを自動構築する方法
| アプローチ | メリット | デメリット |
|---|---|---|
| アクティブONA | 主観的な認識を把握可能 | 回答バイアス、調査負荷 |
| パッシブONA | 客観的、リアルタイム | 表面的な接触と深い関係の区別困難 |
ネットワークの種類
組織内には複数のネットワークが併存しています。
- 助言ネットワーク: 「仕事の問題を誰に相談するか」
- 信頼ネットワーク: 「機密情報を誰に共有できるか」
- コミュニケーションネットワーク: 「日常的に誰とやりとりするか」
- エネルギーネットワーク: 「誰とのやりとりでモチベーションが上がるか」
主要な分析指標
中心性(組織内のキーパーソン)、密度(チームの結束度)、サイロ度(部門間の断絶度合い)、ブリッジ(部門間をつなぐ人材)などを算出します。
実践的な使い方
ステップ1: 分析目的と対象範囲の定義
「合併後の統合度評価」「イノベーション阻害要因の特定」「リモートワークの影響分析」など、具体的な分析目的を明確にします。対象とする組織の範囲と分析するネットワークの種類も定義します。
ステップ2: データの収集と構築
アクティブまたはパッシブのアプローチでデータを収集し、ネットワークを構築します。両方を組み合わせることで、より正確なネットワーク像が得られます。
ステップ3: ネットワークの可視化と指標算出
ネットワーク図を作成し、中心性、密度、コミュニティ構造などの指標を算出します。部門やロールごとに色分けした可視化は、組織構造の理解を促進します。
ステップ4: 課題の特定と施策の立案
分析結果から、情報のボトルネック、サイロ化、キーパーソン過度依存、孤立者などの課題を特定します。部門横断プロジェクト、メンタリング制度、物理的なオフィス配置の変更など、具体的な施策を立案します。
活用場面
- M&A後統合: 買収先と買収元の従業員間のネットワーク統合度を定量的にモニタリングします
- リモートワーク評価: オフィス勤務時とリモート勤務時のネットワーク変化を比較し、協働への影響を評価します
- 離職リスク予測: ネットワーク上の孤立度や接続パターンの変化から、離職リスクの高い従業員を早期に検出します
- 組織再編計画: 実態のネットワーク構造を踏まえた合理的な組織再編案を設計します
- ダイバーシティ推進: 属性別のネットワーク構造の違いを分析し、包摂的な組織づくりの施策を設計します
注意点
プライバシーと同意の確保を最優先にする
ONAは個人の行動データを分析するため、プライバシーへの配慮が極めて重要です。分析の目的、データの利用範囲、結果の報告方法を事前に明示し、従業員の同意を得てから実施してください。
監視ツールとしての誤用を防ぐ
ONAの目的は組織の改善であり、個人の監視ではありません。「誰がサボっているか」「誰が非効率か」を見つけるために使うと、組織の信頼関係を破壊します。分析結果は集計レベルで報告し、個人名の公表には慎重になってください。
複数のネットワークを併用して分析する
助言ネットワークだけ、あるいはメールログだけでは組織の全体像は把握できません。複数の関係タイプを分析し、一致点と不一致点から総合的に判断してください。
ONAの結果を人事評価に直結させることは、組織の心理的安全性を著しく損なうリスクがあります。「ネットワークが小さい」ことが必ずしも低パフォーマンスを意味するわけではなく、深い専門性に基づく少数の質の高いつながりの方が価値を生むケースもあります。分析結果は組織全体の構造改善のための材料として活用し、個人の業績評価には使わないでください。
まとめ
組織ネットワーク分析は、公式の組織図には現れない実態としての組織構造を可視化し、組織開発の意思決定を支援する手法です。助言、協働、信頼など複数のネットワークを分析することで、キーパーソン、サイロ、ボトルネックを客観的に特定できます。プライバシーへの最大限の配慮と、監視ではなく改善のための活用という原則を守ることが、ONAを成功させる最も重要な条件です。